投稿日:2025.10.08 最終更新日:2025.10.08
【医師監修】なぜ肥満で大腸がんのリスクが上がるのか?体重増加と癌化のメカニズムを解説
当院でも「私は肥満体型なんですが、癌発症のリスクはありますか?」という質問をよくいただきます。
インターネットで検索しても『肥満の方は癌発症のリスクが高いです』という内容をよく見ると思います。
結論からお伝えすると、肥満は科学的にも大腸がんのリスクを高めることがわかっています。この記事では、がんと肥満の関係性を、詳しいメカニズムに沿って詳しく解説しまていきます。
- なぜ「肥満=癌」になりやすいの?
- 肥満体型で特に注意すべきは「大腸がん」
- 本当にキケンなのは肥満ではなく体重減少!?
- 不安を感じたときに、まず何をすべき?
青木内科・眼科 青木 洋一郎
総合内科専門医/日本消化器病学会専門医/日本内視鏡学会専門医。日本人の2人に1人が「がんになる」と言われる時代に、早期発見の重要性を知ってもらいたいという思いから「痛くない内視鏡検査」を確立。
大前提:肥満は「がん化」を促進する!

まず大前提、「肥満」は大腸がんをはじめ肝臓がん、子宮内膜がん、乳がんなど、複数の種類のがんの発症リスクを高めます。
特に栄養吸収の場である「大腸がん」は発症リスクが非常に高いです。まずは肥満の方が大腸がんになりやすいとされるメカニズムを解説していきます。
肥満が「大腸がん」になりやすい2つの理由
理由1:「高インスリン血症」になってしまうから
肥満になると、血糖値を下げるインスリンというホルモンが効きにくくなる「インスリン抵抗性」という状態に陥ります。
こうなると体は血糖値を下げようとインスリンやインスリン様成長因子-1(IGF-1)を過剰に分泌するため、血液中の濃度が高い状態が続きます。高インスリン血症やIGF-1の過剰分泌はがん細胞の発生や増殖を促進と関わっており、がん発症のリスクが上がります。
理由2:「悪玉物質の分泌」を促進してしまうから
肥満になると、「レプチン」というホルモンが過剰に分泌されます。
この物質もまた、大腸粘膜の細胞増殖を促し、がんの発生・発育を後押しします。特に、お腹周りに脂肪がつく「内臓脂肪型肥満」は大腸がんリスクと強く相関するため危険と考えられています。
大腸がんは早期発見が必須!
早期発見で「9割以上」が完治可能!
どんな病気でも「早期発見を〜」と言われていますが、大腸がんは特に早期発見が不可欠。
というのも大腸がんは他のがんと異なり、すぐに“がん化”するわけではありません。「大腸ポリープ→大腸がん」へと進行する、つまりポリープや大腸がん初期の段階で切除してしまうことで、がん細胞を完全に除去できるため、完治の見込みが非常に高い疾患なのです。
そのため肥満体質の方は、ぜひ一度大腸カメラなどの大腸検診を行っていただくことを推奨しています。
なぜ日本の死因上位が「大腸がん」なの?
大腸がんは常に日本人の死因の上位を占めています。完治できるがんなのになぜ上位に来ているのでしょうか。
結論これは、日本における「大腸検査(内視鏡検査など)」の受診率の低さにあります。
【院長コラム】日本は大腸がん対策の劣等生?
近年「食生活の欧米化」によって様々ながんの発症リスクが示唆されていますが、実は大腸がんによる死亡率は“欧米より日本の方が圧倒的に高い”です。
この要因のひとつが「大腸がん検査の受診率」と言われており、欧米では50歳以上の大腸がん検診(内視鏡検査など)が国から推奨されています。ドイツもまた55歳以上の大腸検診を国が支援しており、進行大腸がんになる前に“切除する患者の割合”が非常に多いことから、重症化する前に完治している割合が高いと考えられています。
決して日本の医療レベルが低いわけではありません。そもそも日本人が「大腸検診を受けないこと」こそが、大腸がんによる死因が多い要因のひとつとなっているのです。
【実は】最も怖いのは肥満より「急激な体重減少」
ここまで「肥満と大腸がんの関係性」について解説しましたが、私たち専門医が診る深刻なサインは、実は肥満ではなく急激な体重減少です。
もちろん、健康的なダイエットによる体重減少は問題ありませんが、特に何もしていないのに“数ヶ月で急激に体重が落ちた”という場合は、大腸がんを含めた何らかの病気が隠れている可能性を考える必要があります。
肥満はあくまで「がんを促進させる危険がある」だけですが、急激な体重減少は、既にかんが進行している可能性があります。
「がんになると痩せる」メカニズムとは?
まずはがんによって体重減少が起こるメカニズムを詳しく説明します。
①:身体に必要なエネルギーをがん細胞が横取りする
まず体内にがん細胞ができると、体内ではがんを駆除するために代謝(エネルギー消費)が活発に行われます。これにより、まず脂肪燃焼しやすい身体になります。
次に、がん細胞は正常な細胞よりもはるかに多くのエネルギー(ブドウ糖)を消費しながら増殖していきますから「がんを成長させるエネルギー消費」も同時に起こります。
この2つが合わさることで、脂肪は燃えやすく、筋肉には栄養が行き届かないという状況になり、急激な体重減少が起こってしまいます。
②:食欲抑制物質が放出されて「食べたくない」が起こる
がん組織からは「炎症性サイトカイン」という“食欲不振物質”が放出されます。
この物質が脳に直接作用して食欲を低下させることで、ただでさえ栄養が行き届いていない体内に、追加の栄養を送り込みづらい身体になってしまうのです。
ちなみに、大腸がんの場合は腫瘍が大きくなることで腸が狭くなり、食事が通りにくくなったり、消化吸収能力が落ちたりすることも体重減少の一因となります。
キケンな体重減少の目安:6ヶ月で10%減
体重減少の目安としては「意図せず過去6ヶ月で体重の10%以上が減少した場合」を危険視するケースが多いです。
例えば体重60kgの人なら、半年で6kg以上の減少。
医療現場では「6ヶ月で5%減」を危険領域とするケースもありますが、5%程度であれば飲食量によっても増減します。ただダイエットも何もせず10%も体重が落ちてしまう場合は、がんをはじめ、消化器官のどこかに異常をきたしている可能性がありますから、すぐに専門医に相談することをお勧めします。
【院長コラム】体重減少が起こってからでは遅い!

大前提として、大腸がんは初期症状がほとんどありません。
大腸がんが進行すると、おならの回数が増えたり血便が起きたり、体重減少が起こったりといった可視化できる症状が現れはじめます。
こうなってしまうと「切除して完治」が難しくなってしまいます。そのため私たちは、肥満をはじめ、飲酒・喫煙など、がんを発症する可能性が高い私生活を送っている方にこそ定期的な内視鏡検査(大腸カメラ)を行っていただきたいと考えているのです。
大腸がんの初期症状については、こちらの記事に詳しくまとめていますので併せてご覧ください。
大腸がん初期症状、血便や腹痛は危険?専門医のチェックリスト
「最近、お腹の調子が悪い…」 「便に血が混じっていた気がするけど、病院に行くのは少し怖い…」 インターネットで調べるほど、さまざまな情報が目に入り、かえって心配が募ってしまうこともあるかもしれません。当クリニックでもそんな症状から「最悪、大腸がんというケースもありますか…?」と来院いただく方も少な
当院の「痛くない・苦しくない」大腸カメラについて

「症状は気になるけど、大腸カメラは痛い・苦しいって聞くし…」
大腸がんの診断に欠かせない大腸内視鏡検査(大腸カメラ)ですが、過去に辛い経験をされた方や、検査に対して抵抗感を持つ方は少なくありません。
当院では、そのような患者様の不安や苦痛を少しでも和らげるため、少しでも「痛くない・苦しくない」内視鏡検査が行える工夫を行っています。
検査を楽に受けられる3つの工夫
1. 麻酔で眠っている間に検査終了
検査は麻酔を投与して行うため、ほとんどの方が眠っている間に検査が終わり、痛みや不快感を全く感じることなく、リラックスして検査を受けていただけます。
実際に当院で大腸カメラを受けていただいた患者様からも「こんなに楽だとは思わなかった」というお声をいただいています。
2. 「軸保持短縮法+水浸法」による高度な技術で、検査後のお腹の張りを軽減
大腸カメラでよくあるお腹の張り感や痛みは、内視鏡によって腸管が伸ばされた時に感じるものです。
そこで当院では自然なままの腸管の状態で、無理に伸ばすことなく内視鏡を挿入する「軸保持短縮法(じくほじたんしゅくほう)」を採用しています。腸管に無理な力を加えないため、内視鏡挿入時の痛みを大幅に減らすことができます。
加えて当院では大腸内視鏡検査で空気の代わりに少量の水を注入して、腸管をふくらませずに内視鏡スコープを挿入する「水浸法(すいしんほう)」という検査法を行っています。
水を使うことでスコープの滑りが良くなるのはもちろん、腸管を無理に伸ばしたりひねったりする必要がなくなるため、検査時の痛みや検査後の腹部膨満感を大幅に軽減できるのです。
当院では高度な技術と最新の設備により、腸管に負担のかけない「軸保持短縮法+水浸法」を組み合わせ、内視鏡検査の負担を大幅に軽減することが可能となりました。
3.検査前の準備は「ご自宅」でリラックスしながら
大腸カメラでもっとも大変なのが、下剤を飲んで腸の中をきれいにすることです。当院では、この準備をご自宅で行っていただけます。
事前の診察で、下剤の飲み方や食事の注意点などを詳しくご説明し、専用のキットをお渡しします。リラックスできるご自宅で準備をしてからご来院いただけるため、精神的な負担も少ないと好評です。もちろん、院内にもプライバシーに配慮した専用個室をご用意しており、ご希望に合わせてお選びいただけます。
検査結果をしっかり「覚えて帰る」ための工夫
当クリニックでは麻酔検査はもちろん、検査後の「麻酔拮抗薬」も“当クリニック負担”で行っています。
「麻酔あり」で大腸カメラを実施した場合、リカバリー室で休憩後に検査後の説明を行いますが「逆行性健忘(検査前の記憶を思い出せなくなること)」が生じることがあります。
一見すると意識は覚醒しており、会話もしっかりできる状態ですが、あとで「医師からの説明を十分に思い出せない・覚えていない」状態になります。これは麻酔薬の効果が残っている場合に起こります。
しっかりと検査を受け、その結果までしっかり聞いて欲しい。それこそが我々医師の務めだと思い、麻酔拮抗薬の処方までを検査治療として実施しています。
麻酔拮抗薬は高価かつ保険適応外であるため「当医院の負担」で行います。精神科薬・眠剤を常用されている方には投与できません。
”切除すべき腫瘍”だけを切除することが必要

大腸カメラで大切なことは、癌化の危険性がある腫瘍性ポリープだけを確実に発見し切除することです。癌化することのないポリープ(非腫瘍性ポリープ)を治療する意義はありません。
大腸カメラは「ポリープを切除したか」で大きく費用が変わります。つまり「ポリープ切除を行ったか」によって患者様のご負担が大きく変わるということです。無駄な治療を行わないことは患者様の経済的なご負担を減らし、医療費を削減することで世界に誇る国民皆保険制度の持続可能性に寄与すると考えています。
腫瘍性ポリープと非腫瘍性ポリープを正確に鑑別し、確実に腫瘍性ポリープのみを切除することは、内視鏡医に求められる必須の技術です。そして、検査あたりの腫瘍性ポリープ発見率(ADR;腺腫発見率)は、内視鏡医が実施する大腸カメラの精度を測る重要な指標とされています。
当クリニックでは「ADR(腺腫発見率)47%」の診察実績を踏まえて、患者様の負担を極限まで減らす大腸カメラ(内視鏡検査)を実施しています。
確かな技術と高い精度の安心な内視鏡検査で、大腸がんで苦しむ方を一人でも減らしたいと心から思っていますので是非お気軽にご相談ください。
米国における2024年推奨値「ADR(腺腫発見率)」:35%
内視鏡検査(大腸カメラ)の費用
症状がある場合や、検診の結果で陽性となった場合の精密検査には、健康保険が適用されます。3割負担の場合の費用目安は以下の通りです。
- 観察のみの場合:5,000円〜7,000円前後
- ポリープを切除した場合:20,000円〜30,000円前後(ポリープの大きさや数によります)
鎮静剤の使用などによる追加費用はいただいておりません。また、ポリープ切除は手術に該当するため、ご加入の医療保険から給付金が受け取れる場合があります。
上記はあくまで目安です。詳細はお気軽にお問い合わせください。
まとめ:体重にかかわらず、定期検査を推奨します
この記事では、肥満と意図しない体重減少という、2つの側面から大腸がんのリスクについて解説してきました。大腸がんは早期発見さえすれば、決して怖い病気ではないことをご理解いただけたかと思います。
この記事のポイント
- 肥満体型、特に内臓脂肪が多い方は大腸がんのリスクが上がる
- 「意図しない体重減少」には要注意
- 大腸がんは初期症状がほとんどない
- 早期発見で大腸がんは完治可能
- 「痛くない・苦しくない大腸カメラ」での定期検査が大切!
インターネット上の情報だけで一喜一憂するのではなく、ぜひ一度は専門医に相談してください。検査を受けて「何もなかった」と確認できれば、それだけで安心して毎日を過ごせるようになります。
どんな些細なことでも構いませんので、まずはお気軽にご相談いただければと思います。

